テレビ東京系で毎週土曜日午後10時から放送中の「新美の巨人たち」。
2023年5月20日(土)の放送予定として、八王子市下柚木にある「大学セミナーハウス」が予告されています。今回は放送を前に同施設を取材してきました。
「大学セミナーハウス」について
1965年(昭和40年)に開館した「大学セミナーハウス」は、1960年代の高度成長期に、大学でのマスプロ教育への問題提起から、人の交流の場をつくるための理念を形にした一般の方も利用できる学生・社会人向けの宿泊施設付き教育研修施設です。
建物はル・コルビュジエの愛弟子のひとり、建築家の吉阪隆正さん(1917〜1980)と吉阪さんが主宰した設計の研究室・通称「U研究室」によって設計されました。
場所は八王子市の野猿街道を登ったバス停「野猿峠」から徒歩5分のところにある多摩丘陵の森林地帯。東京ドーム1.5倍の敷地面積(22,400坪)に111室の宿泊室と20室のセミナー室が点在しています。
この日は本館を中心に、主要な建物の内部を特別に取材させていただきましたのでご紹介したいと思います。
本館
入口を入ってまず目に入るのは逆ピラミッド型の特徴的な「本館」です。
地下1階・地上4階建ての建物は「大地に楔を打ち込んだような」と評されるように、当時としては珍しい鉄骨にコンクリート打ちっぱなしの逆ピラミッド型の建物。
1999年には「DOCOMOMO Japan」から「日本におけるモダン・ムーブメントの建築 No.19」に選定。2017年には東京都選定歴史的建造物にも選ばれた吉阪隆正さんと「U研究室」の代表作です。
建物の裏側に回ってみると建物の上部には「眼」のレリーフが。
なんともミステリアスな光景です。
こちらが本館1階フロントの入口。とても重厚なコンクリートの屋根がついています。
2階は客室。3階は当時の雰囲気がそのまま残った共有のラウンジスペースになっています。その奥に客室(2室)があります
建物は4階建てですが、途中にM2階とM3階があり、地下階を入れると6層構造になっています。
吉阪さんがデザインしたオリジナルの手すりも多く残されていて、階をつなぐ渡り階段にはわざと傾斜がついていたりと、吉阪さんの遊び心が随所に感じられます。
かつて食堂だった4階は現在、多目的ホール(収容人数150名)になっています。室内には以前の五千円札にも描かれた新渡戸稲造さんの書や、大学セミナーハウスの創設者・飯田宗一郎さんの書なども展示されています。
4階の窓から見える景色は絶景!
南大沢や堀之内の多摩ニュータウンの風景が見られました。
M3階には以前、展示会で展示された初期の頃の「大学セミナーハウス」の模型が展示されています。
吉阪さんは多摩丘陵の自然の地形を活かして様々な建物を配置したそうで、竣工時は7つの群に宿泊できる小さなユニットハウスが計100棟あり、それぞれの群に1室セミナー室を設けたそうです。
模型の横には外へと続く出入り口があります。
こちらは本館の上部から伸びていた黄色い橋。1階まで降りることなく、建物へ出入りできるようになっています。
図書館セミナー室・講堂
続いて訪れたのは開館の2年後に当時の三井銀行の寄付によって建てられた「図書館セミナー室」と「講堂」。
建物の横には、7つの群の象徴として葉のレリーフがあしらわれています。
図書館セミナー室は30名が利用できるセミナー室になっています。
セミナー室のベランダから見える景色も絶景ですね。
「図書館セミナー室」と「講堂」のシェル構造の屋根が寄り添います。冬にはこの奥に富士山が見られるそう。
「大学セミナーハウス」に配置されている一部の建物は富士山との位置関係も計算して建てられているそうです。
講堂は150名が利用できる「大学セミナーハウス」内でも一番広いセミナー室です。
起伏が激しく緑が豊かな大学セミナーハウスの敷地内。右手には「野外ステージ」が見えてきました。小径を通って次は白い建物の「松下館」へ向かいます。
松下館
こちらの「松下館」はその名の通り、松下電器産業(現・パナソニック)の創業者・松下幸之助さんが寄贈した建物です。教員の方が宿泊する棟として誕生しました。
建物全体が曲線を活かした造りになっています。
松下館セミナー室(定員15名)には、かの福沢諭吉の書が掲げられています。
こちらも窓の正面には富士山が見られるそうです。
松下館の屋上にも特別に入れていただきました。(※通常立ち入りできません)ここはかつて「屋上庭園」だったそうです。
庭園の一角には三井銀行の当時の頭取が文字を記した「真理の鐘」が配置されています。
松下館の近くには現在も残るユニットハウスがありました。
現在は「アートビレッジ」として、アーティストの創作活動や交流の場となっています。
中央セミナー室
こちらは「中央セミナー室」。このピラミッド型の屋根を逆さまにしたのが、本館の逆ピラミッドにつながったそうです。
内部は定員60名のセミナー室になってます。防音設備を完備していることから音楽関係の方がよく利用するそうです。
天井にはトップライトがあり、こちらも不思議な空間。かつては特撮シリーズの撮影も行われていたそうです。
長期館
最後に訪れたのは「長期館」。こちらは15名以上のグループが利用できる貸し切りの宿泊施設です。
内部は共有スペースを中心に螺旋階段にベッドやデスクなどの居住空間があり、宿泊者同士がコミュニケーションを図れる独特な建物になっています。
写真だけだと分かりづらいのですが、今年2月に発売されたHKT48のシングル曲「君はもっとできる」のMVは、こちらの長期館の外観と内観で全編撮影されたそうで、建物の螺旋構造がよく分かる映像になってます。
他にも映画やテレビドラマなど、様々な映像作品の撮影が行われているそうです。
ということで「大学セミナーハウス」の主要な建物をご紹介しました。訪れた時は新緑が鮮やかで敷地内を歩くだけでも癒やされました。
以前は大学の垣根を超えたセミナーが頻繁に行われてましたが、現在は企業研修で利用されることが多いそうです。
開館から57年経過していることから、建物や設備の老朽化が大きな課題になっているそうです。現在は寄付サイト「コングラント」にて、建物保全のための維持費と修復費の寄付を募集しています。
建築遺産「大学セミナーハウス本館」保全のための寄付のお願い | 公益財団法人 大学セミナーハウス
「新 美の巨人たち」が5/20(土)に放送
5月20日(土)22時放送
テレビ東京「#新美の巨人たち」
アンガールズ田中卓志さんがアートトラベラーとして#大学セミナーハウス を巡りました。
撮影時は晴天に恵まれ順調な撮影でした。
ディテールを丁寧に撮影されていたので放送が楽しみです。 pic.twitter.com/mR3MsWqyBq— 大学セミナーハウス 広報室 (@seminarhouse) May 15, 2023
そうした中、テレビ東京系の「新美の巨人たち」(2023年5月20日(土)放送予定)に「大学セミナーハウス」が登場します。
番組内ではアートトラベラーとして、アンガールズの田中卓志さんが今回紹介した建物を巡るそうですよ!
ちなみに見学する場合は本館1階のフロントで受付すれば、本館と敷地内が見学可能です(※本館以外は外観のみ見学可能)。
ただし状況によっては今後変更する場合があるそうなので、行かれる際は事前に公式サイトで最新情報を確認の上、訪れてみてくださいね。
【東京・八王子の摩訶不思議な建築群】#吉阪隆正「#大学セミナーハウス」
近代建築の巨匠 #ル・コルビュジエ に師事した天才建築家が設計した研修施設。なぜこの形に?誕生物語にアンガールズ #田中卓志 さんと迫る。5月20日(土)夜10時
テレビ東京系列にて放送🌈#新美の巨人たち #シシド・カフカ pic.twitter.com/cLxixUpdQR— 新美の巨人たち (@binokyojintachi) May 13, 2023
大学セミナーハウス
所在地:東京都八王子市下柚木1987-1
アクセス:京王線「北野駅」、京王相模原線「南大沢駅」、JR線「八王子駅」からバス。「野猿峠」停留所から徒歩5分
駐車場:50台
公益財団法人 大学セミナーハウス(公式ホームページ)